部下の質問に最短で答えたら、間にいる人が一人、情報から消えた。
きっかけは、引っ越し費用がいつ出るのかという小さな質問です。でも本当の争点は質問の中身ではなく、私が自分から足した一言の方にありました。
何が起きたかを、先に3行で
1. 面談で、メンバーAが「引っ越し費用がいつ支給されるのか分からない」と質問した
2. 私が「チームリーダーBに聞くか、私が担当Cへ直接聞くか」の二択を出し、メンバーAは後者を選んだ
3. そのとき私が「現場に知られずに答えを取ってくる」と付け足した
登場人物は4人だけ

- 私 — 部門のマネージャー。この記事の書き手
- チームリーダーB — 私の直属の部下。お客様の現場でチームをまとめている
- メンバーA — 入社して間もない人。同じ現場で働く、チームリーダーBの部下
- 担当C — 会社の管理部門。制度やお金の手続きに答えられる、ほぼ唯一の相手
私から見れば、メンバーAは「部下の部下」です。ふだんの報告は メンバーA → チームリーダーB → 私 の順で上がってきます。この順番を、この日は私が自分から飛ばしました。
事実だけなら、たったこれだけです。どこで間違えたのかを、順に書きます。
場面1:二度目の面談で、小さな質問が出た
配属から少し間を置いた、二度目の面談だった。業務は予定どおり終わっていて、職場の人にも慣れてきたという。報告としては、何も問題がない。
話が一段落したところで、メンバーAが小さな質問を出した。
引っ越しの費用は出ると聞いているんですが、いつ支給されるんでしょうか。
金額の話ではない。時期が分からないだけだ。
ただ、この答えを持っているのは現場の誰でもなく、管理部門の担当Cだった。入社して間もないメンバーAから見れば、担当Cは名前しか知らない遠い相手だ。
場面2:二択を出して、余計な一言を足した
私はこう返した。チームリーダーBに聞けるか。聞きづらいなら、私が担当Cに直接聞く。
聞きづらかったら、私が直接聞きますよ。
理由も添えた。チームリーダーBに聞けば、質問はそこから別の部署へ、さらに担当Cへと渡っていく。二度、三度と転送されれば、答えが戻るのは何日も先になる。私が直接聞けば、一度で戻る。
メンバーAは後者を選んだ。ここまでは、たぶん誰がやっても同じ判断になる。
問題は、そのあとに私が付け加えた一言だった。
現場に知られないように、答えだけ取ってきますよ。
そんな頼まれ方は、していない。
私が引っかかったのは、自分が足した一言だった
口に出したあとで気づいた。この一言は、二つのことを勝手に決めている。
- メンバーAは、隠したがっている
- チームリーダーBには、知らせない方がいい
どちらもメンバーAは言っていない。それどころか、どのルートで聞くのがよいかを先に私へ相談している。隠れて動いてなどいない。
近道を作ると、通らなかった人の手元から情報が消える
この一言で、三人が見ているものがずれた。
メンバーAにとっては、聞きやすい相手に聞いただけだ。私にとっては、待ち時間の削減だった。答えが早いほうがいい。それだけだ。
チームリーダーBの側にだけ、別の景色が残る。自分のメンバーが制度に疑問を持ち、その答えが自分を通らずに出る。しかも、その経路を用意したのは自分の上司だ。
自分は数に入っていないと感じる人はいる。私は、そう感じさせる形を自分から選んでいた。
つけ加えるなら、チームリーダーBが機能していないわけではない。執務環境の相談を受けたときは、その場で受け止めて現実的な線まで一緒に落としている。今回だけ、経路の外に置かれた。
善意で作った最短経路は、誰かを必ず一人飛ばす。飛ばされた側には、飛ばされたことだけが残る。
背景:誰に聞くかを、うちのルールは決めていない
なぜこんなことが起きるのか。ルールの側にも理由がある。
制度の疑問を誰に聞くか、うちの規定に定めはない。窓口の一覧もない。だから聞く先は、毎回その場で決まる。決めるのはたいてい、その場で一番権限を持っている人だ。
もうひとつ、制度やお金の話は長いあいだ現場で避けられてきた。話せば不安を大きくすると考えられていたからだ。うちに限った話ではないと思う。
私は逆に考えている。判断の材料を渡さなければ、仕事の感覚は育たない。だから聞かれたら答える側に立っている。速く答えたことは間違っていない。間違ったのは、答えを誰と共有するかを決めなかったことだ。
ただし、たらい回しを我慢させるのは違う
留保も書く。聞きにくさをメンバーAに耐えさせるのが正しい運用だとは思わない。
質問が現場から別の部署へ、そこからまた別の担当へ渡ることは実際に起きる。二度、三度と転送されれば、次からは聞かなくなる。聞かなくなった人は、自分で推測して動く。
だから迂回路そのものは要る。要らないのは、迂回したことを黙っておく約束だ。
私の落ち度は、経路ではなく順番だった
先に確かめるべきだったのは、聞きにくさの中身だった。
人が理由なのか、質問の内容が理由なのか、返ってくるまでの時間が理由なのか。私はそれを聞かずに、聞きにくいだろうと決めて代わりの道を出した。
さらに言えば、「現場に知られずに」と最初に口にしたのは私だ。メンバーAは隠したいと言っていない。私がその言い方をすれば、隠すことが前提として正しくなってしまう。
早く楽にしてやろうとして、間にいる人を情報から外した。
面談のあとで決めたのは3つ
その場で決めたのは、私が担当Cに確認することだけだ。残りは面談のあとに決めた。
1. 答えは私が取るが、内容はチームリーダーBにも同じ日に渡す。
隠す約束はしない。経路を飛ばすのはいいが、飛ばしたことを黙っていると隠しごとになる。
2. 「聞きづらい?」と尋ねる前に、誰に何をいつまでに聞きたいのかを確認する。
聞きにくさの理由が人だとは限らない。時間が理由なら、経路を変える必要もない。
3. 同じ質問が二人目から出たら、個別に答えずに配属時の説明に入れる。
一人への回答を繰り返すと、経路が私だけになる。
おわりに
制度の質問に見えて、実際は誰が情報の経路に残るかという話だった。
中間管理職は、上と下の両方に経路を持っている。だから最短が作れる。そして最短を作るたびに、通らなかった人の手元から情報が消える。
明日ひとつだけやるなら、これを勧めたい。自分の部下から質問されて自分で答えたなら、その答えを間にいる人にも同じ日に渡すこと。それだけで、経路を飛ばしたことが隠しごとにならない。
このシリーズでは、中間管理職として実際にやってしまった判断を、そのときどう間違えたかまで含めて書いています。同じ立場で似た場面に出くわす方に届けば幸いです。
※ 実際の業務経験をもとに書いていますが、当事者が特定されないよう内容を変更し、脚色しています。