ある人の仕事が、一時間にわたって褒められた。その部屋に、その人はいない。

悪い話なら、私はその日のうちに動いていました。良い話だったので、何もしませんでした。

何が起きたかを、先に3行で

1. 常駐先の責任者との打ち合わせで、メンバーの働きぶりが具体的に評価された
2. 同じ会議で、メンバーが働く枠組みを次の形へ切り替える段取りが確認された
3. 私は議事録に書面の確認と次の打ち合わせだけを書き、メンバーに何をいつ伝えるかは書かなかった

登場人物は3人だけ

図版
  • 私 — 部門のマネージャー。メンバーを送り出している側で、この会議に出ていた
  • メンバー — 一年ほど前から顧客の職場に常駐して働いている人。この会議にはいない
  • 顧客の責任者 — 常駐先の責任者。メンバーの評価も、働く枠組みの話もできる立場

この会議にいたのは、私と顧客の責任者です。メンバーは同じ建物で働いていますが、この部屋にはいません。評価も、働く枠組みの変更も、メンバーのいない場所で動きました。

事実だけなら、たったこれだけです。なぜ3番目が問題なのかを、順に書きます。

場面1:一年分の評価が、一時間で流れていった

細かいところまで見てくれて、本当に助かっています。

顧客の責任者は、そう言った。

メンバーが常駐を始めて一年ほどになる。最初のころは、資料の体裁を整えるような依頼が多かった。

途中から様子が変わった。期日の決まった地味な整理作業を任され、検証用の模擬環境を組み立てる仕事にも入っている。前に別の分野で扱っていた知見を持ち出して、こうした方が早いという提案まで出した。

顧客の責任者は、その一つひとつを挙げて評価した。「楽しそうにやっていますね」とも言った。私は礼を言い、うなずいた。

場面2:同じ会議で、働く枠組みを変える話も進んだ

評価の話が終わると、話題は契約に移った。

いまの枠組みには終わりが決まっている。次は別の形にする。切り替えには準備の期間が要るので、先に書面の確認を進める。その段取りを、顧客の責任者と私で確認した。

決まったのは進め方だけで、メンバーの仕事の中身が変わるわけではない。私はそう受け取った。

私が引っかかったのは、部屋の外にあるもの全部だった

この一時間で扱ったのは、三つある。メンバーへの評価。次に任される範囲。働く枠組みの変更。

三つとも、メンバーがいない場所で動いた。そして三つとも、いずれメンバーに届く。

届く順番と時期を、私は決めなかった。

良い話は腐らないと思っていた。腐らないが、消える

これが叱責なら、私はその日のうちに動いた。悪い知らせを寝かせると事故になる、という感覚が働くからだ。

褒め言葉に、その感覚は働かない。急がなくていいと判断したのではなく、判断そのものをしていない。

メンバーの側に立つと、見え方が変わる。先になって枠組みの変更を聞かされ、そこで「前から評価は高かった」と足されても、順序が逆だ。先に届いた変更の話が、後から来た評価を、説明のための飾りに見せてしまう。

これは特定の誰かがひねくれているという話ではない。自分のいない場所で自分の話が進んでいたと知ったとき、人はまず「いつから決まっていたのか」を考える。伝える予定を作らなかった好意は、なかったことになる。

背景:うちのルールは、決まるまで言うなと読める

契約の形をどうするかは、正式に固まる前に伝えない。決まっていないことを聞かせて不安にさせない、という理屈で、これ自体は筋が通っている。

私の解釈はこうだ。「決まっていない」と「検討が始まった」は別のことだ。中身は言えなくても、いつごろ決まるのかは言える。沈黙は配慮に見えて、受け手の側では「知らされなかった期間」として記録される。

ただし、検討の途中を全部渡すのも違う

この解釈には穴がある。検討の途中を全部渡せば、まとまらなかった案までメンバーに背負わせることになる。人は、一度聞いた選択肢を忘れない。

だから「全部伝える」も答えにならない。伝えるかどうかではなく、何をいつ伝えるかを決めるという話に落とすしかない。

私の落ち度は、議事録の行数に出ていた

会議のあと私が残した記録には、書面の確認と次の打ち合わせの時期が並んでいた。

メンバーに何をいつ伝えるか、という行はどこにもなかった。

顧客の責任者が挙げてくれた評価の中身も、私の記録には残っていない。要旨として「評価は良好」とだけ書いた。「細かいところまで見てくれて」という言い方は、そこで消えた。

段取りを決めなかったのではない。決める対象として見ていなかった。

私が決めたのは、3つ

1. 会議の持ち帰り欄に「当事者に伝えること/伝えないこと」を一行ずつ置く。
空欄でもいい。欄がなければ思い出さない。
2. 評価は要約せず、聞いた言葉のまま、その週のうちにメンバーへ渡す。
「評価は良好」は情報だが、「細かいところまで見てくれている」はメンバーの行動を指している。要約すると、何が良かったのかが落ちる。
3. 枠組みの変更は、中身が決まる前に「いつごろ決まるか」だけ先に渡す。
内容の共有と時期の共有を分ける。分ければ、不安にさせずに沈黙をやめられる。

おわりに

自分のいない場所で自分のことが決まっていく。中間管理職は、その部屋に座っている側だ。座っている以上、部屋の外へ何をどの順で出すかは、こちらの仕事になる。

明日ひとつだけやるなら、これを勧めたい。この一週間で、当事者のいない場所で誰かが褒められる場面に立ち会っていなかったかを思い出し、あったなら今日のうちに、聞いたままの言葉で渡すこと。

好意を運ぶのに、決裁は要らない。


このシリーズでは、中間管理職として実際にやってしまった判断を、そのときどう間違えたかまで含めて書いています。同じ立場で似た場面に出くわす方に届けば幸いです。

※ 実際の業務経験をもとに書いていますが、当事者が特定されないよう内容を変更し、脚色しています。