自動車系のSIer(システムの受託開発をする会社)で中間管理職をしています。開発の請負と準委任が中心で、客先の製品開発に入って仕事をする部門です。
画面共有には、新人全員分の一覧が表示されていた。発言の重なりが収まると、私に問いが来た。
何人ほしいですか。
私は画面に表示された一覧を見た。必要な人数は答えられる。けれど、この一覧に分類され、最後に名前を呼ばれるかもしれない人へ何を渡すのかは、まだ決めていなかった。
その日の会議は、新人の配属をどう決めるかを話す場だった。以前は会社側が割り振っていたが、今回は各チームが指名して取り合う形へ変える案が出ている。
自分のチームで新人を受け入れる見通しを、早く渡したかった。だから私は、人数を先に答えることにした。
この返事に、最後に呼ばれる人の居場所はあるのだろうか。
目次
第1部 場面 — 人の順番が決まるまで
1. 登場人物は3組だけ
2. 一覧に書かれていた言葉
3. 問われたのは、人数だった
4. 次の議題へ進む前に
第2部 考察 — なぜ人数だけを答えたのか
5. ここで、別の一手もできた
6. 型の名前を付けるなら
7. ただし、くじ引きにすれば公平かというと違う
8. 私が信じていた前提
第3部 打ち手 — 次に同じ場面が来たら
9. 私が決めたのは、3つだけ
10. その後
11. おわりに
第1部 場面 — 人の順番が決まるまで
登場人物は3組だけ
- 私(部門のマネージャー。1チームを預かり、指名する側)。守りたいもの=新人が配属の理由を理解し、最初の配属先へ入ること
- 各チームの責任者(私と同じ立場で、それぞれのチームを預かる指名する側)。守りたいもの=自分のチームに必要な人数を受け入れること
- 新人(新しく入る、配属される側。この会議にはいない)。守りたいもの=自分の配属先を理解して働き始めること

私と各チームの責任者は、選ぶ側だ。新人は一覧に載る側で、この会議にはいない。
客先の製品開発に入って働く部門では、新人を各チームへ配属する。何が起きたかを、先に整理する。
1. 以前、新人の配属は会社側の割り振りで決めていた。
2. 今回、各チームが新人を指名して取り合う形へ変える案が出た。
3. 会議の前に、新人ごとの向き不向きを分類した一覧が、指名する側だけへ共有された。
4. 各チームが人数を申告し、上位の指名を順番に進め、残りは人数の少ないチームから配る段取りになった。
事実だけなら、ここまでだ。ここから、一覧が共有された場面へ戻る。
一覧に書かれていた言葉
会議の前、共有された一覧には新人の名前が並んでいた。カメラをオンにした顔が並ぶ中、誰も言葉を挟まなかった。
一覧を見た私は、配属の段取りを決めるための材料だと受け取った。新人を合わない場所へ入れないには、研修中の様子から見立てを作る必要があると思ったからだ。
そこには、「この仕事に向いている」「こちらの方が向いている」「どちらでも問題ない」「この仕事には向かない」という分類があった。研修中の様子から、先にそうした見立てが付いている。
「向いている」と分類された人より、「向かない」と分類された人の方が多かった。
分類すること自体を、私は悪いとは考えなかった。どこでもよいとして配れば、合わない場所に人が行く。見立ては、配属される新人を守る側に働くこともある。
ただ、この一覧を新人は見ていない。選ぶ側と選ばれる側は、同じ言葉を見ていなかった。
問われたのは、人数だった
仕組みの説明が一通り終わると、その場には沈黙が残った。画面共有の一覧は、表示されたままだった。
私は、新人が一覧の言葉を知らないことを頭の隅に置いた。そのまま進めてよいのか迷ったが、まず配属先を決めれば、新人を宙に浮かせずに済むと考えた。
問いは、順番に回ってきた。
何人ほしいですか。
私は、自分のチームに必要な人数を答えた。誰が、ではなく、何人。
各チームの責任者が必要な人数を申告し、上位の指名までは順番に選ぶ。埋まらなかった分は、人数の少ないチームから順に配る。その段取りは、配置を決める仕組みとして筋が通っていた。
私は、聞かれたことに答えた。その議題は、次へ進んだ。
次の議題へ進む前に
会議が次の議題へ移る前も、画面共有の一覧は表示されたままだった。私は画面の最後の行へ目を戻す。
配属の順番は決まった。けれど、最後に決まる新人へ、誰がいつ何を伝えるのかは決まっていない。
全員の名前が呼ばれ終わるとき、最後に呼ばれた人がいる。上位の指名で名前が挙がらず、どこからも指名されなかった新人だ。
その新人に誰が何を言うのか。その話は、会議で一度も出なかった。
同期同士は、互いの配属先を知る。配属の時期も同じなら、誰がどこへ行ったかから、どういう順番だったかを推測できる。
伏せられるのは事実ではなく、言葉だけだ。
第2部 考察 — なぜ人数だけを答えたのか
ここで、別の一手もできた
全員の配属を決める前に、「最後に回った新人へ、誰が理由を伝えるかを先に決める」と提案できた。指名の順番を止めず、説明の順番だけを決める一手である。
私は、その一手を取らなかった。配属先を早く定めれば、新人を不安なまま待たせずに済むと考えたからだ。
けれど、配属先が決まることと、理由を渡すことは別だった。私はその違いを、会議の中で決め切れなかった。
型の名前を付けるなら
選ぶ側から見れば、指名制は配置の最適化だ。必要な人数を先に押さえ、順番に選ぶ。会議も短く終えられる。
選ばれる側には、同じ仕組みが順位に見える。自分は何番目に呼ばれたのか。呼ばれたのか、それとも余ったのか。そう受け取る人がいても、不思議ではない。
ここに名前を付けるなら、順位だけが先に立つ配属だ。選ぶ側の効率が先に見え、選ばれる側へ理由が届く前に順位だけが残る。
この型では、配属先が決まっていても、理由を聞くまで新人の見通しは戻らない。選ぶ側の効率は、選ばれる側の順位になる。
ただし、くじ引きにすれば公平かというと違う
配属を決めるのは会社であり、新人ではない。新人の希望は参考にするが、最後は事業の都合で決まる。この原則を変える気は、私にはない。
見立てを作ることも、指名することも、それだけで誤りではない。理由なく機械的に配れば、なぜその場所なのかを説明されないまま働く人が出る。
くじ引きのように配る仕組みには、順位が見えにくい強みがある。その一方で、理由を伝えられない弱さも残る。
順位だけが先に立つ配属を避けるには、仕組みそのものを捨てるのでなく、選んだ仕組みの穴を誰が埋めるかまで決める必要がある。
私が信じていた前提
私が信じていた前提は、「必要な人数を先に決めれば、新人を宙に浮かせずに済み、各チームへ早く受け入れ先を渡せる」だった。
配属先を早く確定することと、理由を早く渡すことを、私は同じことのように扱った。最後に決まる人を不安なままにしたくなかったのに、そのための説明は後から整えればよいとした。
落ち度は、人数を答えたことではない。事業の配分を決める日に、受け取る人への伝え方まで決めなかったことだ。
人を守ろうとして、私は判断を包みすぎた。管理職として必要だったのは、配属を急ぐことではなく、理由を渡す役割を引き受けることだった。
第3部 打ち手 — 次に同じ場面が来たら
私が決めたのは、3つだけ
1. 分類は、新人に見せられる言葉だけで書く。
「向かない」ではなく、「先にこちらの経験を積む」と書けるなら、そう書く。書き換えられない分類なら、その分類は使わない。
・効く条件:分類を配属の前に見直せるとき。
・効かない条件:新人に説明できない言葉を残すとき。
2. 配属の理由を誰がいつ新人に話すかを、指名の前に決める。
決まってから考えると、話す人がいなくなる。全員が自分の役ではないと考えかねない。
・効く条件:指名の段取りと、伝える人を同じ場で決められるとき。
・効かない条件:配属の理由を説明できる人が、会議に参加していないとき。
3. 最後に決まった新人から、先に説明する。
指名の順番と、伝える順番を逆にする。仕組みを変えずに、すぐ始められる。
・効く条件:配属の順番と、話す順番を別に決められるとき。
・効かない条件:理由を伝えず、順位だけが残るとき。
その後
この会議で固まったのは、各チームが人数を申告し、上位の指名を順番に進め、残りを人数の少ないチームから配る段取りまでだ。
配属の理由を誰がどう伝えるかは、会議の段取りに入らなかった。会議は次の議題へ進んだ。
おわりに
画面共有で表示された一覧は、配属を決めるためには便利な資料だった。けれど、最後に決まる人へ理由を渡す役目まで、その一覧は決めてくれない。
明日一つだけやるなら、人数を聞かれたときに「最後に決まる人に、誰が理由を伝えますか」と先に聞く。順位だけが先に立つ配属を、そこで止めたい。
このシリーズでは、中間管理職として実際にやってしまった判断を、そのときどう間違えたかまで含めて書いています。同じ立場で似た場面に出くわす方に届けば幸いです。
※ 実際の業務経験をもとに書いていますが、当事者が特定されないよう内容を変更し、脚色しています。